熊本地震調査からの教訓、『最低でも耐震等級3』

2016年4月、熊本地震が発生しました。阪神淡路大震災を越える、多くの木造住宅の倒壊被害が発生しました。
このことは、既存住宅の耐震診断・補強、そして、新築住宅の耐震性の向上を事業目標として30年やってきた私には、非常にショックなことでした。これまでも、住宅の被害状況については、実際に自分の目で見ることが大切と考え、ほとんどの大地震後に現地調査に入ってきましたが、益城町の景色はこれまで見たことのない広範囲にわたる壮絶なものでした。住宅のみならず、道路もうねり、人々の生活がほんの28時間、でもその短い間に震度7を2回、震度6強を1回を受けたことで一変したことがわかりました。私は足が動かなくなるまで現地を踏査し、大量の写真を撮影しました。なぜ、これほど倒壊したのか、なぜ、新しい住宅まで倒壊したのか、木造住宅に携わってきた者として、どうも納得がいかない。それならば、とことん分析をして、ホームズ君ソフトを活用して住宅設計を行っていただいているユーザー様にも広く公開すべきとの使命も感じていました。

つくばに戻り、大量の写真の整理に追われる中、雑誌編集者との縁もあり、倒壊物件の図面も大量に拝見させていただきました。さっそく、ホームズ君ソフトを使って、様々な条件設定を行い、問題点の確認を進めました。スタッフたちと、何度も何度も入念に見直ししながら、細かい検討を慎重に進めました。どの物件もお施主様にとって大切な住宅です。一つたりとも間違いがあってはなりません。そして、ようやくまとまったものが、
『熊本地震 倒壊分析マップ』(googleストリートビューを活用して、倒壊前写真と倒壊後写真が比較して見られます)
『熊本地震 調査報告レポート』(被害程度、要因、対策、提案を整理)
です。

その後、8月には日本建築学会災害委員会の報告、そして、9月には国交省からの報告書が発表されました。その国交省の報告書の総括は、以下のとおりでした。
木造住宅については、旧基準の建物について耐震化が一層重要である。
・2000年に導入した現行基準は倒壊・崩壊の防止に有効である。この基準に適合していない住宅にも耐震化の取り組みが必要である。
・耐震等級3は大部分が無被害だった。今後、より高い耐震性能を確保するためには住宅性能表示制度耐震等級の活用が有効である。

つまり、”現行基準法は倒壊・崩壊を防ぐだけのレベルとしながらもその有効性を認め、消費者に高い耐震性を示す際には選択肢として耐震等級を示すとよい”ということですが、どうなのでしょうか。
いつ大地震がどこで起きても不思議でない日本で、生涯、最も高い買い物であり生活の基盤を取得しようとするとき、倒壊・崩壊しないだけの住宅でよいと考えている消費者がいるでしょうか。

こうしたことに、多少の苛立ちを感じながら、この被害を建築士の立場でどう考えていくべきなのかをみなさんと共有する機会として、「日本の木造住宅を強くしよう~熊本地震被害に学ぶ~」と題したセミナーを秋葉原の大ホールで開催しました。そして、このセミナーで、住宅性能表示制度の耐震等級の規定に携われた大橋好光先生、東京都市大学教授)がおっしゃられた言葉が印象的でした。
「木造の構造をずっとやってきて、今回のことで”木造は弱い”といった間違った認識が広まるのが残念です。耐震等級を確保する設計を行えば、大地震にも十分に耐えうる強い木造住宅が建設できる。」

地震に限らずですが、災害への関心は喉元を過ぎるとすぐに薄れてしまいますが、地震はいつどこで発生しても不思議ではありません。
今回の被害の教訓として、『最低でも耐震等級3』を伝えていくことを次の使命としています。

セミナーの詳細は、次のページをご覧ください。

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