熊本地震に関する国交省の見解をふまえた、今後の木造の地震対策が一般の方向けのテレビ番組等でも紹介されるようになりました。
そこで、疑問なのが、どの番組でも、口をそろえて、『重要なのは直下率』と結論づけていることです。しかも、その重要な直下率が建築基準法で規定がされていない。と。
あながち間違いでもないですが、これは構造を知る建築士であれば、誰しも疑問を感じると思います。なぜなら、本来の構造計算である許容応力度計算や、あるいは、2000年に規定された住宅性能表示制度による耐震等級の床倍率が規定される以前では、確かに、柱や耐力壁の直下率が重要でありました。しかし、現在では、直下率より床の水平構面としての剛性を検討することのほうが、工学的見地からはるかに重要であることが示されています。
9月に発表された国交省の熊本地震に関する総括も以下の3点に要約されており、耐震等級の検定が有効であることを明確に示しています。
・木造住宅については、旧基準の建物について耐震化が一層重要である
・現行基準法は倒壊・崩壊の防止に有効である。
・より高い耐震性能を確保するためには住宅性能表示制度の活用が有効である。
たしかに、『直下率』は上下階の柱の位置関係を確認するものですから、非常にわかりやすい考え方ではありますが、耐震等級の考え方は、こうしたものを遥かに上回る精緻な検討を行う方法であり、構造検討を担当する建築士であれば当然行うべき検定項目といえます。意識のある建築士や工務店は当然取り組んでいます。この耐震等級についても、許容応力度計算というさらに詳細な検討を行うことも全く珍しくありません。そのぐらい、阪神淡路大震災以降は、木造住宅に関しても工学的なアプローチが飛躍的に向上しています。
しかしながら、ローコスト・デザイン重視の住宅市場で、見えない部分である構造に関する設計コストは軽視されがちであることも、また、真実であり、耐震等級は検討したいと建築士が考えても、やらせてもらえない、そうした話も聞きます。
テレビ番組は消費者に「『直下率』さえ確保されれば安全である」といった乱暴な理解を伝えているのではないかと懸念しています。大地震が複数回あっても耐える住宅のためには、『最低でも耐震等級3』、これが熊本地震の教訓です。確かに、それには設計コストが増えますが、生活の基盤である住宅を失う場合のコストを考えれば、微々たるものといえます。
これまでは、建築関係者のみなさまにはお伝えする機会を設けてきましたが、今後は一般の方にも、このことをお伝えしていかなければならないと考えています。この地震大国日本において、地震で損傷を受けない住宅をつくるため、生活を失わないために覚えておくべきことは、『直下率』ではなく、『耐震等級3』なのです。